
炎が見える。
夜を徹して焚き続けられる窯。その焚き口から這い出してくる妖しいまでの炎のゆらぎを
まっすぐな眼差しで見つめる一人の男がいた。板谷嘉七(榎木孝明)31歳である。
学生時代、岡倉天心(益岡徹)に思想的影響を受けた板谷は、幼き頃に見た
美しい陶磁器を自らの手で作ってみたいとの衝動に突き動かされ、経験を持たぬまま
日本の新しい陶芸を開拓すべくその道を歩み始めようと決意する。
故郷・下館から見える筑波山からとった『波山』という名前と共に。
明治の気丈な女性・妻まる(南果歩)は夫の決断に覚悟を決める。
「子供たちだけは泣かさないで下さい」
石川県工業学校陶磁科の教職を辞した波山は、東京田端に小さな新居を構える。
わずかに残った退職金は75銭。東京高等工業学校の嘱託教師をし、
粘土細工を作って生計を立てていかざるをえない。一方、友人平野(大鶴義丹)が
設計した理想の窯・三方焚口倒焔式丸窯の完成を目指し、窯造りに明け暮れる日々。
しかし、決して安くはない耐火煉瓦の費用は家計を圧迫し、まるは自分の着物を質に
入れながら多くの借金をして回らなければならなかった。
そんな苦労の末に完成した窯への初めての火入れの時、波山は薪の量を見誤る。
「火がここで止まったら全てが終りだ」という夫の言葉にまるは走り、近所で廃材を調達
それでも足りないと夫が叫ぶと妻は雨戸を壊し始める。
初窯の作品を有名陶芸家・堀田(中村嘉葎雄)に「思想が無い」と評され
貧困を憐れんだ親戚が子供を養子に出せと語気を強めてもそれを断り、
波山は自分を信じ続ける。「突き進むことで何かを得られると信じています」
二度目の窯焚き。ようやく火を落とそうとしたその瞬間、東京を地震が襲う。
作品はほぼ全滅状態となった。借金の多さに傷を修正して売って下さいと懇願するまる。
しかし波山は失敗作を世に遺すことはできぬと叩き割ってしまう。
助手・深海(柳ユーレイ)の去った穴を埋めるべく波山は石川へ赴き、その後
53年間共に作陶することとなる専属ロクロ師・現田市松(康すおん)と巡り会う。
貧困はなおも続くが現田というパートナーを得た波山は、ついにその研究の集大成となる
『葆光釉(ホコウユウ)』という釉薬を究める。
そしてある日、波山の作品に魅せられたという若き実業家(加瀬亮)が
波山の前に現れる・・・。